2015年 03月 26日
ピアノ弾きのカラス |
今日も去年Sipka様で行った個展【追憶と眠りの国~眠りの為の回顧展~】の作品を紹介します。
今日は【ピアノ弾きのカラス】です。
この作品を紹介する前に、この個展の設定をもう一度軽く説明する必要があります。
この個展は死者が死後の国アムニジアに辿り着き、その国にある歯科医院で診察をしてもらい、己の生前の姿や後悔の念などを受け入れて許されていくというものだったのですが、
その歯科医院には診察を行う歯科医として双子の姉妹「アグリ」と「パドマ」がいます。
今回の物語にはこの二人の名前が出てくるので先にご紹介させて頂きました。
(個展開催時にはフライヤーにて物語の序章を載せさせて頂きそこには彼女達や設定について軽く触れてあったのですが、わかりづらくてすみません。)
さて作品の紹介です。
この子もまたお気に入りの子です。
診察台に座っています。ピアノ付きの診察台です。
まだ物語を読んでいない方は何のことか分からないと思いますが、この診察台は元々治療を嫌がる患者の気を紛らわせる目的でアグリとパドマの両親が作った物の一つ。
実用的でないので物置に入れられていたものを出してきた、という設定です。
カラスの頭骨風の顔です。
口の中の歯形はわたしの歯型です。
鍵盤が歯のピアノ。
ピアノの歯は粘土です。
それでは物語です。
ある日アグリとパドマのもとにカラス頭の男が訪れた。
歯科医院に患者が訪れアグリとパドマが診察を行う。
これはいつもと変わらないアムニジアの日常の風景であるが、このカラス頭の男にはほかの患者と違う点があった。それは彼はこの歯科医院を訪れるのが今回が初めてではないという点である。
彼はアムニジアの草原の中で何度も季節を繰り返しており、この歯科医院の扉を開けるのも何十回目か分からない程の常連になっていた。何故そうなってしまったのかというと、どうやら彼は頑なに診察を断り続けているということであった。
「昔から歯医者がどうも苦手でね、削る音が耳について仕方ない。骨をごりごりとやる様な音も上品で無いのです。怖くて怖くて。しかしここ(アムニジア)は草が生えているばかりで他に何もないでしょう?そうしてふらふらと歩いているといつもどういう訳かここに辿り着いてしまうんですから、困ったものです」
アグリとパドマはこのカラス頭の男に今まで何度も口を見せて貰おうと努力したのだが、彼は口を開いてはくれなかった。
それでも話しているうちに少しずつ心が通うようになり、最近では彼が来ると診察を諦めてお喋りをして過ごした。
彼の方も二人を話し相手にしており、いつも歯科医院で長話をするのがお決まりになっていた。
「草原を歩くのはいいものです。風と空気が戯れるのを聴いていると住んでいた街の事を思い出します」
いつもの様に待ち合いのソファーに腰掛けて話し始めようとするカラス頭の男を見ながらパドマはくすくすと笑った。
アグリはパドマが笑うのを小さく叱るとこう言った。
「では、今日は少し変わった物でも見せようかなと思います」
アグリとパドマは診察室の奥へと消えて行き、何やら大きな機械を引きずって来た。
奥から引っ張り出されて来た物は昔の診察台の様だった。
その診察台にはなんとピアノが付いていた。しかもよく見ると鍵盤は歯で出来ている。そしてピアノの上部には口を大きく開ける為の丸い器具が付けられていた。
カラス頭の男は驚いた様子でその機械を見ていたが、暫くすると診察台に腰掛け鍵盤に指を置いた。
「いろんなピアノを弾きましたが、こんなピアノは初めてですよ」
鍵盤に指を下ろす。
潤った石の空洞に響く様な不思議な音色が鳴った。
「何故わたしがピアノ弾きだと分かったんです?」
アグリとパドマは何も言わずにこにこしていた。
カラス頭の男は微笑むと嬉しそうに鍵盤を叩き始めた。
「いい曲を弾いて差し上げましょう。貴女達の様な仲の良い双子の星の曲です」
遠い昔にした子供同士の約束をずっと守っているような優しい音色に包まれて歯科医院に温かい時が流れた。
今日はちょっとほんわかしたお話でしたね。
中には自分の運命などを分かっていながらもなかなか素直に受け入れられない人もいると思うのです。
ピアノ弾きのカラスさんも自分を許せる日が来るといいですね。
早いもので、明日でとうとう個展作品の紹介はおしまいです。
(個展の会期中に同時に置いていた【七つの大罪計測装置】というシリーズはまた来週からご紹介します。)
明日は今日少し登場した姉妹「アグリ」と「パドマ」を紹介します。
彼女達はこの個展の主人公でもあります。
明日もまたみてね(・ξ・)つ◎
eerie.
by eerie-eery
| 2015-03-26 23:11
| mono oki goya